IUU漁業対策フォーラム

~専門家に聞く IUU漁業対策~
資源管理が導く 日本漁業の未来

今回、三重大学大学院生物資源研究科准教授 松井隆宏先生に、日本における水産資源管理、IUU漁業対策に関してお話を伺いました。

IUU漁業対策プロジェクト事務局(以下 事務局):松井先生は資源循環学科に所属されていますが、主にどういったことを研究されているのですか?


フィールドワーク中の様子

松井先生:現在は主に水産経済学の研究をしています。例えば、資源管理が上手くいっている地域と上手くいっていない地域を比較して、その原因を分析しています。最近は、実験経済学、行動経済学の手法を用いた分析や、計量経済学の手法を用いた市場分析等を行っています。また、日本の沿岸漁業は地域コミュニティとの関わりが深いので、研究の延長で地域活性化にも携わっています。IUU漁業対策関連としては、三重県で鳥羽商船高専の先生と一緒に、ドローンを使った密漁監視の研究も始めました。

事務局:ドローンで!ハイテクですね

松井先生:沿岸で獲れるイセエビ、アワビ、ナマコ、ハマグリ等は価格も高いので密漁のターゲットになりやすく、監視を強化するとともに、これらに対するトレーサビリティ制度を作ることができれば対策として有効だと思います。ドローンを使うのは、密漁を監視する側のコストを削減したり、安全性を確保したりする意味で効率的です。

5年後、日本の食卓から魚が消える・・・?

事務局:さて、今年は特に、サケ・サンマ・スルメイカなどの歴史的不漁や、シラスウナギの乱獲による減少が報道されていますが・・・

松井先生:そうですね、報道は良く見かけます。ちなみに、実際に魚が減っているという実感はありますか?

事務局:えっ、実感ですか? ・・・やはりスーパーで魚の値段が上がったりすると、感じますが・・・。でも実際、そこまでの危機感はないかもしれません。

松井先生:多くの日本人がそうだと思うのですが、欧米に比べて「資源管理」の問題に国民的な関心が低いと思います。日本は島国で、豊かな水産資源に恵まれているせいか、それが無くなることを想像しにくいのかもしれません。例えば5年後、10年後に、魚が食べられなくなることを想像できますか?

事務局:たしかに、そう言われてみると・・・ちょっと想像できないです。いくらでも獲れるような気になっていました・・・。5年後、夕ご飯にサンマが食べられなくなることを想像したら、ちょっと怖くなってきました。

漁業現場では・・・

事務局:松井先生は頻繁にフィールドワークで漁業の現場にも赴かれるとお聞きしました。漁業者・水産関係者は、資源が減少しているという状況をどう捉えているのでしょうか。


フィールドワーク中の様子

松井先生:獲りすぎという面では、実感としては高くないと思います。

事務局:えっ、そうなんですか。魚が獲れなくなったら、一番実感がありそうですが・・・

松井先生:あくまでも自然を相手にしているので、減ったと思ってもまた増えたり、増えたと思ってもまた減ったり・・・。また、漁業者が獲りすぎたから枯渇してしまったと一概に言えるものでもなく、資源量の増減には環境の変化等の様々な要因が考えられますので、理屈では分かっていても、実感はさほどないのではないでしょうか。

それに、漁業者の皆さんは長年の経験に基づき、少なくとも個人としての合理的な判断の下で漁をしていますので、彼らに「獲りすぎだ」と責任を問うのではなく、漁業権や漁業・資源管理、流通のルールを作っている、管理する側の責任を問うべきだと思います。

日本の漁業、海外の漁業

事務局:日本の漁業は、水産資源管理が進んでいるEU等と比べ、どういった特徴があるのでしょうか

松井先生:そうですね、ヨーロッパでは少量の魚種が大量に獲れるので、比較的資源管理がしやすいと思います。それに比べて、日本の特に沿岸漁業では、魚種の多さや、地域コミュニティと密接であることなど、独自の形があります。ですから、資源管理をしようとするときに、EU等で行っている方法をそのまま見習っても解決しないことも多いですが・・・

事務局:EU等では、MSCの「海のエコラベル」(※注)が一般的に広く知られていると聞いています。また、この魚がどの船で獲られたものなのかについても、写真もついていて一目で確認できるものもあるなんて、すごいですよね。日本でも、野菜の生産者の顔写真はスーパーなどで目にする機会はありますが、水産物に関しては見たことがありませんし・・・

 
英国のスーパーでの、タラ類の切身の表示(表・裏)。「海のエコラベル」が貼られ、加工場所、漁獲水域・漁具等が明記されている。

松井先生:トレーサビリティが浸透していますね。

事務局:日本でも、船の写真まではついていなくとも、「海のエコラベル(※注)」のついた魚は売られていますが・・・正直なところ、それをあえて選ばずに、安い方を買ってしまうかな、と思います。すみません・・・

松井先生:私も含め、一般的な消費者はもちろんそうだと思います。環境問題、資源管理に対して意識が低いと言ってしまえばそれまでですが、北米やEUでは、一部の小売店は、「海のエコラベル」のない魚は仕入れない、売らないんですよ。だから、消費者は自然に認証されたものを手にとるようになっています。

事務局:え、そうなんですか!

松井先生:こうした問題については、消費者だけ、漁業者だけ、で取り組んでもだめです。流通・小売りも含めて一丸となって取り組む必要があります。

行政・漁業関係者・消費者、それぞれができること

事務局:具体的に、IUU漁業対策、ひいては日本漁業の活性化のために、どのような取り組みが必要だと思われますか?

松井先生:消費者や漁業に関わる人たちの意識改革ももちろん大事ではありますが、長期的には、漁協(漁業協同組合)の役割、漁業権や漁場利用・管理の在り方など、これまでの制度を根本的に見直すことも視野に入れた、行政による構造改革の必要があると思います。

また、先ほども言いましたが、流通業者の影響は大変大きいので、IUU漁業対策としては、監視や規制を強化するだけではなく、流通をきちんと管理された状態にシステム化することが有効だと思います。それに加えて、報道の力も大きいです。マスコミは漁獲量の抑制に対して、食卓の魚の値段が高くなる、とその場限りの問題として報道するのではなく、長期的な資源管理の問題であることをしっかりと報道してほしいと思います。マスコミと流通業者が結束すれば、大きな影響を与えられるのではないでしょうか。

漁業者から消費者までの流れのなかで、それぞれが協調しながら、一体となって問題解決に取り組む必要があると思います。

事務局:最近では、卸売市場を通さない水産物の流通・販売のサービスも様々に目にするようになりました。そうした新しい動きが、IUU漁業対策やトレーサビリティの確立に向けた取り組みと、上手く相互作用することも期待したいですね。松井先生、貴重なお話をありがとうございました。

【松井 隆宏(博士(農学))】
東京都生まれ。
2004年東京大学農学部卒業。
2010年同大学院農学生命科学研究科修了。
近畿大学グローバルCOE博士研究員などを経て、2012年より三重大学大学院生物資源学研究科准教授。専門は、水産経済学、資源管理論、フードシステム論。

(※注):海のエコラベル:イギリスに本部のある「MSC(海洋管理協議会)」が定めた、その商品に使われている水産物が、持続可能で環境に配慮した漁業で獲られたことを示すマーク


2018/03/08